2011.04.11 comet
今週はさっぱり集中力がなく、時間配分を完全に間違った茅です。コンバンハ。
市内放送が入らなかったら、危なく選挙にも行き損ねるところでした。あぶねーっ。
締め切り20分前に駆け込み、何とか間に合いました。
SSに関しても今週こんなのばかりです。少しは反省しろ、自分!
来週はもう少しSS書く時間を捻出したいところです。
拍手お礼SSも入れ替えたいし、桜井兄弟(特に琥兄)成分(?)が枯渇しているので、そちらも書きたい。
書きたいものは沢山あるのに、時間と集中力はまるでない orz 困ったものです。←お前がな

そんなわけで、「天体シリーズ」ラストは玉緒先輩です!
引っ張りまくって何とかラストとなりました。
3年目冬。大学生の玉緒先輩と、18年周期の彗星(捏造)を見に行くお話です。
先に卒業してしまった玉緒先輩の悶々ぶりを書いてみました(笑)。

しかし、今回書いていて一つ分かった事は、
曖昧なテーマで書くと、酷い目に遭う
……ということですね。痛感致しました(涙)。大火傷(笑)。
とにもかくにも「天体シリーズ」に最後までお付き合い頂き、本当に有難うございました!


よろしければ、続きからどうぞ。







 -comet-



 「彗星を一緒に見に行きませんか?」

 そう美奈子に誘われたのは先週のこと。
 あまり大きくもないし有名ではないけれど、18年ぶりに地球に近づいている彗星があることを玉緒も知ってはいた。
 彗星が最接近する今週末に、プラネタリウムの駐車場で観測会が行われるのだという。
 確かに天気さえ良ければ、冬は星を見るには絶好の季節と言えるだろう。
 取り立てて星に興味があるわけではないが、他ならぬ美奈子からの誘いだ。いつもならば、玉緒も二つ返事でOKしたことだろう。
 けれど今回に限っては、その返事を躊躇った。
 一緒に行きたいのはやまやまだ。けれどそれは、美奈子が受験生でなければ、の話だ。
 受験生にとって、今は重要な時期と言える。高校の文化祭も終わり、そろそろ本腰を入れて準備を始めなければいけない頃に、体調など崩してしまえば出鼻を挫かれることになる。そして、それが後々尾を引きかねない。
 その事を危惧して控えめではあるが、電話口で言い募る美奈子に玉緒は難色を示した。

 「ちゃんと厚着して行きますし、そんなに長い時間いないようにしますから!」

 そう言い張る美奈子に、今の時期が受験生にとっていかに大切な時期なのか、玉緒は懇切丁寧に説明を試みるが、尚も美奈子は食い下がった。
 
 「だって……今回チャンスを逃すと、次に見られるのは18年後なんですよ?」

 そんなふうに言われてしまうと、反論しにくいではないか。
 結局、条件付きで玉緒が折れる結果となった。
 電話口で小さくため息を漏らすと、今一度美奈子に念を押した。

 「ただし、風邪を引かないように、ちゃんとした暖かい格好で。観測会が終わったら、すぐに帰るからね。約束出来る?」
 「出来ます! ちゃんと、守ります!」
 
 半ば子供に言い聞かせるような口調の玉緒とは打って変わって、電話の向こうにいる美奈子の声は弾んでいた。その声に、一抹の不安を覚える。
 けれど、文化祭の準備で忙しかった美奈子をデートに誘うのは憚られ、ここ1か月くらいは2人切りになることなどなかった。
 そして、今度は受験の準備に追われ、数ヶ月間は2人で出掛けることなど、今まで以上に難しくなるだろう。
 そう考えると、やはり玉緒も強くは出られない。美奈子の弾むその声に気持ちが揺れる。結局、自分の中にある「会いたい」という欲求には勝てないのだ。

 「ありがとうございます、玉緒先輩。……嬉しい。すごく楽しみです」

 電話越しに聞こえてくる美奈子の嬉しそうな声に、何だかんだといいつつもやはり心が躍ってしまう。
 それに気付かれてしまわないように、努めて冷静を装って美奈子との電話を切った。
 玉緒は細く息を吐き出すと、座っている椅子の背もたれに上半身を預けて天井を仰いだ。
 まだ卒業して1年も経っていないのに、自分が高校生だった頃が随分昔のように思えてしまう。
 それはきっと、高校時代は学校にさえ行けば美奈子の顔を、姿を見ることが出来ていたのが、今はそれすらも叶わなくなっているからなのだろう。
 玉緒が卒業してしまった後も、こうして会えるのは本当に嬉しい。
 けれど、同じ大学に通うようになりさえすれば、また高校の頃と同じように、美奈子の顔を見ることが出来るようになる。
 そう考えると、やはり今は体調を崩すかもしれないような行動は、本音を言えば極力避けてほしいのだが……。

 ……とにかく彼女に風邪を引かせないようにしなければ。

 あれだけ言ったのだから、美奈子だって万全な準備をしてくるはずだ。自分が受験生であるという自覚に若干欠けている行動だと思えなくもないが、玉緒がそんなに心配する必要など無いのだろう。思わず苦笑いが漏れた。
 そもそも、例え美奈子が風邪を引いても引かなくても、受験に受かって同じ大学に通うことになったとしても。

 ……彼女の心がどこにあるかなんて、分かりもしないのに。

 ひどく先走った考えだ。自分が落とした呟きがちくり、と胸に小さく突き刺さった。
 静かな部屋の中で、玉緒の沈痛な溜め息が響き渡る。先ほどまで、楽しそうな美奈子の声にあんなに弾んでいた気持ちが、急速に萎んでいくのが分かった。 
 ……けれどそれは、至極当たり前のことで。
 まだ自分は美奈子に何も伝えてはいないし、美奈子の気持ちも聞いていない。
 卒業してからも、こうして一緒に出かけたりすることは出来ているけれど、ただ仲の良い先輩後輩という関係に、何ら変化があったわけではないのだ。
 それはただ現状を維持しているだけ、ということに他ならない。前に進むことも後に下がることもない、ひどく不毛な関係だ。

 ……けれど、今はまだ、こうしていたい。

 例え臆病者だと言われても。
 切ったばかりの携帯電話に視線を落とし、再び玉緒は小さな溜め息を零した。
 



 観測会当日は、雲一つ無い晴天になった。
 新月期に入った月もだいぶ西の空に傾いていて、絶好の観測日和と言えそうだ。

 「わあっ! 結構人が来ていますね」

 プラネタリウムに到着すると、早速美奈子は歓喜の声を上げた。
 その声に促され、あまり広くはない駐車場内をぐるり、と見渡すと、確かに大勢の人たちが集まって、結構な賑わいをみせていた。
 敷地内のあちこちに大小の天体望遠鏡が設置され、その横ではプラネタリウムの館員が忙しなく動いている。いくつかテントも設置されていて、ちょっとした飲み物や軽食も販売されているようだ。

 「思った以上に人がいるね。僕はもっとこう、こぢんまりしたものかと思ってたよ」
 「ふふっ。何だか文化祭みたいで楽しいですね」

 そう言って、楽しそうに笑う美奈子を見てなるほど、と玉緒は頷いた。
 イベントと銘打ってはいても、どこか手作り感溢れた催しであることは否めない。現にパンフレットを手渡していた館員らしき人たちも、いかにも手慣れていない感じがあった。
 けれど、逆にそれが素朴な印象を受ける。そう考えると美奈子の言うような、どこか「文化祭」に似た雰囲気があって、先日訪れたはばたき学園の文化祭を思い起こされた。

 「始まるまでに、まだ時間がありますね。あ、向こうで星座盤を配っているみたいですよ? 行ってみましょう」

 そう言って玉緒の返事も聞かず、美奈子は跳ねるように前を歩き始める。そのあまりに楽しそうな後姿に、玉緒の頬も思わず緩んだ。
 
 「これで彗星が見える方角を確認するんですね。そっかあ、なるほど」

 館員から受け取った星座盤を興味深げにしげしげと眺めながら、美奈子は感心したように頷いた。紙で出来た簡素な作りの星座盤は、いかにも手作りといった感じのものだったが、美奈子の目で見ればそれすらも、まるで宝の地図のように見えるのだろう。

 「……楽しそうだよね」

 独り言のつもりだった。けれど、その玉緒が漏らした呟きは、美奈子の耳にも届いてしまったようだ。何のことだか分からず、美奈子は玉緒に向かって、不思議そうに首を傾げた。

 「あ、いや。……ただ、その、君はいつも楽しそうだなって」

 その言葉に、玉緒を見上げる美奈子の目が更に丸くなる。しかし、何故かすぐに肩を窄めて、悄げたように小さくなってしまった。

 「1人だけはしゃいじゃって、すみません……」
 「ううん、そう言う意味じゃないんだ。ごめん。言い方が悪かったね」
 「……玉緒先輩は、あんまり楽しくないですか?」
 「そんなことないよ!」

 美奈子と一緒にいられるのだ。楽しくないはずなどない。
 思わず力一杯否定してしまった玉緒は、はたと我に返って、恥ずかしさに思わず頬を染めた。

 「……大丈夫。ちゃんと僕も楽しんでるよ」
 
 その言葉にほっとしたのか、美奈子は不安そうに強張っていた頬を緩めた。

 「無理をお願いして来てもらったんで、もしかしたら……って思っちゃって」

 そう言いながら、もじもじ、と小さく体を捩る。
 不用意な玉緒の一言で、美奈子に気を遣わせてしまった。困ったように笑うその顔に、少しだけ胸が痛んだ。 
 美奈子に落ち度などない。玉緒の気持ちの問題だ。
 しかし、それを言葉にするのは難しい。今の状況でどう答えるのが良いのか。結局はそんなことないよ、と一番つまらない言葉を美奈子に返した。

 「そろそろ始まるみたいだし、行ってみようか」

 遠くに見える簡易的に作られたステージに、プラネタリウムの館員が何か説明を始めたのが見えて、玉緒はその場を取り繕うように促した。
 美奈子は何か言いたげにこちらを見上げたが、玉緒は曖昧な笑顔を向ける。
 歩をステージの方へと勧めながら、気付かれないように小さな溜め息を漏らした。
 この溜め息は、美奈子に対してではない。情けない自分に対して、だ。

 「それでは観測会を始めたいと思います」

 気付くと、いつの間にかステージ周辺に大勢の人が集まっていた。
 その後方について、人混みの隙間からステージを覗いた。
 隣の美奈子をそっと盗み見る。興味深そうに目を大きく見開いて、ステージに視線を向け聞き入っているようだ。その楽しそうな横顔に、玉緒は少しだけ胸を撫で下ろした。
 ……不意に、先ほど見た美奈子の驚いた顔が脳裏に浮かんで、思わず顔を顰める。
 美奈子の気持ちを聞く勇気も、自分の気持ちを伝える覚悟もないくせに、嫉妬にも似たこの気持ちを隠し通すことも出来ないなんて、自分のあまりの不甲斐なさに呆れ返る。
 高校にいた頃から思っていたことだけれど、美奈子は本当によく笑う。
 どんなことであっても、美奈子は何か楽しみを見つけ、前向きに楽しむことが出来る娘だ。それは、玉緒にはない、一種の才能だと言えるだろう。
 その屈託のない笑顔を見るのは素直に嬉しいと思う。けれどそれと同時に、とりとめもない疑問が湧いてきて玉緒の胸に暗い影を落とす。

 ……隣に僕がいなくても、彼女は十分毎日を楽しむことが出来る。

 玉緒が高校を卒業し、今日と同じように出かけた時。
 楽しそうに学校の友人達の話をしている美奈子見て、気付いてしまったのだ。
 玉緒の大学生活は、もちろん充実している。
 けれど不意に、自分の日常風景の中に美奈子がいない事に気が付いて、無性に寂しくなる時がある。
 けれど、美奈子は違う。過ごす毎日の中に玉緒がいなかったとしても、楽しく過ごす事が出来るのだ。
 それに気付いてしまってからは、隣で笑う美奈子の笑顔が嬉しい反面、どうしようもない寂しさを感じるようになってしまった。
 こんなものは、ただのくだらない感傷でしかない。そんなことは分かっている。
 締め付けられるような胸の痛みに、玉緒は思わず目を伏せた。

 「……先輩」

 美奈子に小声で呼びかけられて、慌てて顔を上げる。
 何かあったのだろうか? 玉緒の顔を覗き込む美奈子に、訝しげな視線を向けた。

 「……結構、色んな年代の人が来てるんですね」

 一瞬、何を言ってるのかすぐには理解出来ず、固まる玉緒に美奈子は前へと視線を向けた。
 その声に促され、同じようにそちら側に顔を向ける。
 玉緒達と同じような年代のカップルや、仲間と来たのであろう集団。小さな子供を連れた家族もいれば、小学生の集団もいる。その横には年配の夫婦らしき人の姿もちらほらと見て取れた。

 「確かにそうだね」

 けれど、それがどうしたというのだろう?

 「何か……良いですよね」

 その言葉が、一体何を意味するのか分からず、玉緒は首を傾げた。
 それに気付いた美奈子が、照れくさそう微笑んでみせる。

 「この彗星って、18年周期じゃないですか。わたしが次に見る時は、36歳になってるはずで……。その頃どうしてるのかなあ、ってちょっと想像してみたんです」

 美奈子の言葉に、玉緒の心臓が一際大きな音を立てる。
 数ヶ月先のことだって分からないのに、そんな先のことなど想像もつかない。

 「次に彗星が来る頃は、たとえばあの家族みたいに子供を連れてきてるかなあ、とか、もっと年を取って、あのご夫婦みたいに見に来れたら素敵かも、とか……」

 そう言って美奈子が投げかける視線の先には家族連れや、年配の老夫婦が楽しそうに談笑しているのが見えた。
 その光景を見ても、やはり今の玉緒には想像などつかない。
 けれど、今日見る彗星が次に訪れる18年後に、同じようにこうして美奈子と見ることが出来ていたら、どんなに素晴らしいだろう。

 「……うん、そうだね。18年後も、こうして同じように見たいね」
 
 頷きながら、玉緒は思ったままを素直に口にした。
 けれど、何故か美奈子はひどく驚いた顔をして、無言で玉緒の顔を凝視した。

 「えっ? ど、どうしたの?」

 また何か失言をしてしまっただろうか?
 玉緒は戦きながら声を掛けるが、目を見開いて固まったまま、今度は紙が色水を吸い上げるが如く、みるみる美奈子の顔が真っ赤になっていく。
 それを見ていて、玉緒の方が驚きを隠せなかった。何が起きているのか分からない。
 オドオドと美奈子の名を呼ぶと、夢から覚めたようにその体が一瞬跳ねた。

 「あ、す、すすすすみませんっ!」
 「どうしたの? 変なこと言ったかな?」
 「いえっ! 違うんです!」

 大慌てで美奈子は両手を振ると、今度はしきりに指を絡ませ、恥ずかしそうに俯いてしまった。

 「そ、の……な、何か、玉緒先輩の言葉が……プ、プロポーズの言葉みたいに聞こえちゃって……」
 「えっ!?」

 消え入りそうな声で美奈子はそう言うと、真っ赤な顔を両手で隠して、何故か「すみません」と謝って顔を背けてしまった。
 今度は玉緒が赤くなる番だ。狼狽えながら、言い訳をし始める。

 「ご、ごめん! そんなつもりで言ったんじゃないんだけど……。あ、いや、違うって訳じゃないんだけど、順番が違うっていうか……。いや、順番とかそういう事じゃないよな。そうじゃなくて、その……」

 言えば言うほど、自分の言葉に混乱してくる。

 「何を言ってるんだ、僕は……。ああ、その、つまりね……」

 落ち着かなくては。そう考えれば考えるほど、自分の言いたいことが遠ざかって、更に玉緒を焦らせる。
 周りで聞いていた人たちが、小さくクスクス、と笑う声でやっと我に返る。あまりの恥ずかしさに顔から火が出そうだ。
 玉緒も俯く美奈子と同じように顔を伏せ、小声で「ゴメン」と、呟いた。

 「玉緒先輩が悪いんじゃないです。わたしの方こそ、変な勘違いをしちゃって……」
 
 俯いたまま頭を左右に振りながら、美奈子が小声でそれに答える。
 そしてそのまま続いた言葉が、玉緒を更に驚かせた。

 「その……ちょっと、嬉しかったから……」

 予想もしていなかった言葉に、玉緒は思わず顔を上げた。視線に気付いた美奈子も顔を上げる。見事なまでに真っ赤な顔で、恥ずかしそうに微笑んでみせた。

 「……さっき玉緒先輩、いつもわたしが楽しそうだって、言ってましたけど」
 
 何の前振りもなく先ほどのことを蒸し返されて、熱かった玉緒の頬がさっと冷たくなる。
 慌てて口を挟もうとしたところで、美奈子が首を横に振ってそれを制した。

 「違うんです。その……わたしが楽しそうに見えるのはきっと……玉緒先輩と一緒にいるからです」

 そこまで言うと、美奈子の顔がますます赤くなる。頭から湯気でも出てしまうんじゃないかと心配になるくらいだ。
 けれど、玉緒もそれに負けないくらい真っ赤になっているだろう。鏡など見なくとも、頬の熱さでそれが分かる。驚くくらい脈が早くなって、フル稼働で血液を送っているせいで、頭がくらくらする。
 逆上せきった頭を覚ますため、視線を空へと向ける。
 18年ぶりにやってくるその星は、あまり大きくもなく明るくもない彗星で、肉眼で見つけるのは難しい、と先ほどもらったパンフレットに書いてあったことを思い出す。
 実際、振り仰いだ夜空には、見慣れた星座だけが玉緒の目に映った。

 ……この先どうなっているかなんて、到底僕には分からないけれど……。

 自分がどうしたいのか。本当はもう、とっくの昔に分かっている。

 ……僕が、君の隣にいたいんだ。
 
 視線を夜空に向けたまま、玉緒は隣の美奈子の手をそっと掴んだ。
 目を見開いたまま、美奈子が玉緒の顔を見上げているのを横目で確認する。
 喉の奥が妙に詰まって、心臓の音がひどく五月蠅く感じられた。
 何度か浅く深呼吸を繰り返し、詰まる喉からようやく声を出した。

 「……その、いずれ、ちゃんと言うから……」

 やっとの思いで、声を絞り出す。高速回転し続ける頭では、これが今の玉緒の精一杯だ。
 どこまでも格好つかないな、と自分に呆れ返ってしまう。
 けれど、そんな思いとは裏腹に、繋いだ美奈子の手が玉緒の手を強く握り返してきた。
 咄嗟に視線を下ろすと、見上げている美奈子の視線と真正面からぶつかった。
 いたたまれなさに顔を逸らそうか、と思ったその時。
 綺麗な微笑みを浮かべ、美奈子が頷いた。
 
 「……はい。待っています」
 
 その言葉に、どうしようもなく胸が震えた。
 思いがけず涙が零れそうになって、玉緒は大慌てで再び夜空を仰ぐ。

 ……18年後も、36年後も。君と、こうしていたい。

 これ以上、一体何を望むことがあるのだろう。
 この先の事はもう、玉緒次第なのだ。
 火照りきった体から吐き出される吐息が、空中に霧散していく。
 いくら目を凝らしても、やはり肉眼で捉えることは出来ない彗星に、まるで誓いを立てるように心の中で呟くと、玉緒はもう一度美奈子の手を強く握った。